スキ + キス  『好き』 で10のお題 ver.9 より
 


窓から眺める分には、陽も目映くて空の色も青々とした、
なかなかの上天気であったのだけれど。
その風景の中、つまりは屋外へと出てみれば、

  びゅうぅっ、と

洗濯物もベニア板のように凍る、0℃すれすれ。
極寒厳寒、真冬の気候を記録している今日このごろで。
この何年かが暖冬っぽかったその上、
今年も年明け前後は穏やかだったので、
多少ほど下がって来たそれを、
まあこれが冬の寒さってもんだと納得しかかっていたところが、
何年かぶりの記録的な寒波が、
北極海から続々と南下して来たからたまらない。
日本だけの話じゃあなくて、
ヨーロッパやアメリカ、
アジア各地でも凍死者が出るほどの騒ぎに発展しているとかで。

 “それに、
  風が吹くと体感温度はもっと下がるって言いますものね。”

体の表面から直接熱を奪ってゆくからで、
無風のマイナス5℃よりも、寒風吹きすさぶ0℃の方が激寒いとか何とか、

 “何で聞いたんだったかなぁ。”

モン太くんが言ってたのか、
それとも天気予報で予報士のおじさんが言ってたのか。
いやいや、もはや そんな点はどっちでもいいのだ。
だって、思い出せたって何の足しにもならないから。
不用意に水を触ると、心臓まで深々と届いたその衝撃に、
胸元全部を鷲掴みにされるような。
そんなレベルの寒さを齎す突風が、
街路樹の冬枯れした梢をぶるると震わせたり、
常緑の茂みやらをがささと騒がせたりしながら、
びゅうっと翔ってくのへと身を晒されておれば、

 「…小早川。」

JRの構内から姿を現した待ち人が、
張り上げずとも届く、深みのあるお声を掛けてくれて。
たちまち“嬉しいっ”という心持ちになり、
あっと言う間に顔から胸元から、ぽうと暖かくなるこちら、
小さな韋駄天ランニングバッカーくんこと、
小早川瀬那くんとは恐らく正反対。
ややもすると閉口とも困惑とも言えぬ、
困った子だと言いたげなお顔で駆け寄って来るのが、

 「進さんっ。」

いい子で待ってましたよと、
ご主人の到来にはしゃぐ子犬のような。
それは きらきらとした笑顔で待ち受けるセナだったけれど、

 「どうして中で待ってない。」

すぐ背後にはスタンドバータイプのカフェがあるというのに。
しかも通りを向いた壁一面がガラス張りになっているから、
店内にいてもよほど奥まったところにわざわざ隠れでもしない限り、
外から簡単に見定められるというに。
その外でわざわざ、
寒風に縮み上がりながら待ってた彼であるのが、
どうにも納得できぬ仁王様。
遅れて待たせた側が叱るのは忍びないながら、
風邪でも引いたらどうするかと、何よりもまず案じてしまうほど、
待たせたこと以上にギョッとしてしまう光景だったからであり。
同じ世代の、つまりは高校生、
しかも“アメフト”という、
それは激しいスポーツに勤しむ同士とは到底思えぬ童顔の。
ふわりと柔らかで、すべらかな輪郭をした頬を真っ赤にした少年へ、
寒くはないかとの懸念とともに、自分の襟元から引き抜いた、
紳士もののマフラーを巻きつけてやる進だったものの、

 「ふわ……。/////////」

ああ、いい匂いがする。それに凄っごく暖かいなあ…と。
頬を真っ赤にしたセナで。ただ、

 「えとあの、そんなに寒くもないんですけど。//////」

進が巻きつけたマフラーは、紳士ものとはいえシンプルなタイプのそれだったので、
くるんと1周巻くのが精一杯だったりし。
そうまでセナの首回りが、一気に太くなったのではなくて、
既に手編みのらしきそれが、ぐるんぐるんと巻かれてあったから。
しかも…どうやらそれだけじゃあない防寒装備を、決めておいでのようで、

 「一体何人に構われた?」
 「えっとぉ。////////」

頬が赤かったのは、寒さのせいというよりのぼせかけてるせいかも知れぬ。
フェイクファーだろか、毛足の長いボアつきのイアーマッフルに、
極太毛糸で編まれた赤と黒のボーダーマフラー。
制服姿のご当人がどれほど小柄かも判らぬほど、
たっぷりと分厚いダウンジャケットに、
指折り数えてるその手元、モヘアの手套はシュガーピンク。
手首から風が入らぬようにということか、
両手に巻いてる幅広サポータは、誰の趣味だか淡紫で。

 「あのあの、このカッコで喫茶店に入るのは、なんか迷惑になりそうで。」

それと…外にいる方が、彼には“涼めて”心地よかったのかも知れぬ。
実は使い捨てカイロも3つほど、別々の人からもらってて。

 「……。」

近所のスポーツ店では間に合わぬ、
消耗品じゃあない、装備品の買い出しにと出された彼を、
部の皆がそれぞれで案じた結果なんだろうなというのは、
さしもの朴念仁、
破壊王で鳴らしている進にも(おいおい)何とはなく察しがついたが。
そんな皆からの好意を無にするのも何だしと、
思ったセナだったらしいのもまた、お人よしな彼の今更な性分というものだろに。

 「……………。」

ただ黙りこくってしまっただけなのに、
何だか威圧されて怖いと思うのがただの人。
何にか機嫌でも悪くなった進なのかなと気づければ、
結構親しい間柄である証しと数えてもいいと来て。

  ならば……セナくんだとどう感じ取るかと言えば、

 「…何か言いたそうです、進さん。」

そう。
何と申しましょうか、もやもやとしたものが胸へと込み上げて来て、
それをもっての物言いしたくなった、お不動様であったようで。
マスクは顔が隠れてしまうのでと、此処に着いてから外したらしく。
そんなせいか、まださほどに赤くはない小鼻の先だが、
いきなり寒風に晒したためか、

  ……っくちんっ

暖かそうな成りをして、
なのに小さな くさめが出たのが何とも愛らしく。
そんな口許へと、マフラーの端を引き上げてやりながら、

 「小早川は、たくさんの者から好かれているのだな。」

しかも…それへと向けて、
大差無かろう“好き”を彼の側からも向けているセナでもあって。
昔はいじめられてた相手だった十文字くんが、
お昼ごはんの総菜パンやカップめんを分けてくれたりするんですよ、とか。
蛭魔さんて油断のない人で、
困ってるとどこからともなく助けてくれるんですよねとか。
まもり姉ちゃんは、いつまでも子供扱いするんですよね、
でもドジが多いんだから仕方がないのかなぁとか。
構ってくれてありがとうとの想いを載せての、
惚気と紙一重なレベルの甘さでいつもいつも語ってくれるものだから。
寒空の下だってのに、むしろ暑いんじゃなかろうかというほどの、
厳重な装備を降らせてくれた方々との絆が、
しみじみと感じられたらしき、進さんのそんなお言いようへと、

 「……………うっとぉ。///////」

ありゃりゃあと、のぼせ以上のお熱を感じてしまったらしきセナであり。
本人が気づいているかどうかは定かじゃあないものの、

 “もしかして、あのあの…。///////”

  進さんたら………妬いてます?

単に、放っておけぬほど覚束無いセナだからと、
あれやこれや手を掛けてくれてるだけな皆なのにね。
お友達が増えたのが嬉しくて、
でも、それをこんな形で遺憾に思われようとは、
これもまた、
親しい人なぞ数えるほどしかいなかったセナには、
微妙に驚きの体験でもあって。

 「あの、あのですね、進さん。」

あまりにも寒い日の、しかも平日。
繁華街の取っ掛かりという場所じゃああるけど、
こんな日はみんな、地下街の連絡通路を使って移動する。
だからだから、
お天気はいいけれど、でも、
街路には人の姿もほとんど見えなかったものだから。

 「確かにあのあの、ボクには好きな人は一杯いますが。」

それでムッとしたらしい進さんなのはお見通しと、
そんな言いようにも聞こえかねず。
だったので、微妙にうっと言葉に詰まったらしい進の、
やはり学校帰りの制服にコートという姿のその袖口へ、
小さな手をそっと掛けると。
仔猫がその躯をなめらかに伸ばして、
飼い主のお顔を舐めようとじゃれつくかのように。

  ひょいと背伸びをし、
  随分と上背のあるお人の頬を目がけて
  精悍な頬へと、掠めるようなキスを1つ

  「……っ☆」

あまりに素早い一通り。
彼の特長でもある俊足へと冠された“光速”を思わせるすばしっこさで、
至近へと寄って、触れたかと思ったときにはもう、
元の位置へとお顔が戻っていた彼だった。
そして、その速さで競い合うお人ではあったが、
いかんせん、進は甘い方面の話にはとことん疎い男であったので。

 「…………。////////」

何でまたセナが突然、こんな往来で○スなぞ仕掛けて来たものか。
そこのところが判らずに、
唐突な仕儀へと眸を回してしまっておれば、


  「好きな人は一杯いますが、
   キスしたい人は一人しかいませんもの。」


にゃはと、幼い笑顔を向ける少年だったが、
そんな彼の無邪気さが果たしてちゃんと届いていたものか。
冷たいというよりも凍るような風の吹く中、
先程までのセナ以上に、そんな風にのぼせを癒されんとした、
仁王様だったのは言うまでもなくて。
いやはや、若いお人たちと来たらもうvv(苦笑)






  〜Fine〜 10.02.06.


  *そういえば、まだコンプリートしていなかったなぁということで。
   極寒も何のそのな、甘い甘い恋人たちの一景でございましたvv

めーるふぉーむvv めるふぉ 置きましたvv

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